
ショッピングモールなどに設置された機器で「血管年齢」を測った結果について、患者さんからご相談を受けることがあります。
指先の装置は、指先に光を当てて脈の波形(フォトプレチスモグラフィ/加速度脈波)を読み取り、独自の換算式で“年齢”に置き換えて表示します。便利ではありますが、医療用の診断検査ではなく、次のような限界があります。
- 条件に左右されやすい:指先の冷え、緊張、体動、測定クリップの圧、環境光などで数値が変動します。
- 機器ごとに換算式が違う:同じ人でも機械が変わると「血管年齢」が変わることがあります。
→ したがって、健康意識づけの“目安”として捉えるのが安全です。診断や治療の判断には用いません。
当院では、ABI(足関節上腕血圧比)とbaPWV(上腕―足首脈波伝播速度)を測定し、必要に応じて「血管年齢」を補助的に示しながら総合的に評価しています。
ABI(足関節上腕血圧比)とは?

ABI=足首の血圧 ÷ 上腕の血圧。足に血液を送る動脈が細くなっていないか(末梢動脈疾患:PAD)を調べる検査です。
- 目安となる基準:
- 0.90未満 … PADを疑う所見
- 1.40以上 … 石灰化によりカフで血管が圧迫できず偽高値の可能性(追加評価が必要)
- 長所:エビデンスが豊富な確立した検査で、歩行時のふくらはぎ痛、足の冷感・しびれがある方に特に有用です。
baPWV(上腕―足首脈波伝播速度)とは?
上腕と足首に血圧カフを巻いて、脈の伝わる速さを測定し、血管の硬さ(動脈スティフネス)を評価します。脈の伝わる速さが速いほど硬いと解釈します。ABIと同じ装置で同時に測定できます。
- わかること:大動脈を含む体幹〜下肢までの広い区間の動脈の“硬さ”の総合評価。
- エビデンス:baPWVが高いほど将来の心血管イベントが増えることが複数の研究で示されています(1 m/s上昇あたりリスクが約12%増という推定もあります)。
- 参照値の目安:年齢・血圧が上がるほどbaPWVも高くなります。アジア人の大規模データではおおむね1,400〜2,500 cm/sに分布します。
- 注意点:血圧の影響を受けやすいこと、そして「血管年齢」への換算式は装置・研究で異なり統一定義ではないことです。当院では実測値(cm/s)をもとに総合的に評価し、血管年齢はご説明時の補助とし使用します。
測定前のコツ:5〜10分の安静、カフェイン・喫煙・激しい運動直後を避けると、より安定した数値になります。
受診の目安
- 歩くとふくらはぎが痛い、足が冷たい・しびれる・傷が治りにくい方
- 高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙歴のある方、ショッピングモールなどでの指先測定で「実年齢より上」の血管年齢が表示され不安のある方
まとめ
- ショッピングモールの指先での「血管年齢」はあくまで目安。診断や治療の判断には使いません。
- ABIは下肢の動脈の詰まりを見る確立された検査です。
- baPWVは血管の硬さを評価し将来リスクの推定に有用ですが、“血管年齢”への換算は統一されていないため、実測値を中心に医師が総合判断します。
- 当院ではABI+baPWVにもとづき、生活改善や治療の必要性を分かりやすくご提案します。
※本記事は一般向けの解説です。個別の診断・治療は受診のうえご相談ください。