はじめに

夏休みシーズンになると、国内外へ飛行機でお出かけする方も多いかと思います。

楽しい旅を万全の体調で楽しむために、機内環境の特徴とそこで起こりやすい健康トラブルを知り、 “備える・防ぐ・対応する” ポイントを押さえておきましょう。


目次

  1. 飛行機内は地上とどう違う?
  2. 飛行機で起こりやすい健康トラブル
  3. 時差ぼけ(Jet‑lag)対策
  4. 搭乗を控えた方がよいケース
  5. 旅行前の準備チェックリスト
  6. 機内での具体的な注意点
  7. 宇宙放射線と妊娠中の被曝量
  8. 旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)のリスク別予防策

1. 飛行機内は地上とどう違う?

環境要因機内の特徴健康への影響
気圧・酸素おおむね標高 2,000 m 相当 (約0.8気圧)酸素飽和度が平均 3–4 %低下
湿度10–20 %と砂漠並み粘膜乾燥・脱水
温度・気流空調でやや低温、足元に冷気体温調節ストレス、下肢の冷え
宇宙放射線高度・緯度・飛行時間で増加妊婦・乳幼児は線量管理が必要(詳細は後述)

2. 飛行機で起こりやすい健康トラブル

  • 深部静脈血栓症 (エコノミークラス症候群)/肺塞栓症 (PE)
  • 低酸素症による息切れ・頭痛
  • 耳・副鼻腔の気圧障害
  • 脱水・便秘・皮膚乾燥
  • 胃腸不調・嘔気
  • 時差ぼけによる眠気・集中力低下

3. 時差ぼけ対策

  1. 出発 2–3 日前から就寝・起床時間を目的地に 1 時間ずつ近づける
  2. 機内では目的地時間で行動(食事・睡眠)
  3. 到着翌朝の太陽光で体内時計をリセット
  4. カフェインとアルコールは控えめに

4. 搭乗を控えた方がよい主なケース

状態推奨
最近発症した心筋梗塞・脳卒中原則搭乗不可(主治医に相談を)
治療中の 深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症完全治癒か治療安定まで延期
重症心不全・重度不整脈医師同伴または酸素手配
妊娠 36 週以降(多胎は 32 週以降)航空会社の制限あり
急性感染症(インフル・COVID‑19 等)搭乗延期
耳・副鼻腔の急性炎症痛み軽快後に搭乗

5. 旅行前の準備チェックリスト

  1. 主治医へ相談
  2. 常備薬は機内持込み+予備 2–3 日分
  3. 弾性ストッキング を採寸、試着
  4. 旅行保険・緊急連絡先を確認
  5. 十分な睡眠と水分補給で出発当日の体調を整える

6. 機内での具体的な注意点

  • 1 時間ごとに立ち上がってストレッチ
  • 水分補給:1 時間あたり 200 mL を目安(心不全患者さんは主治医に相談してください)
  • アルコール・カフェイン・高塩分食を控える
  • 乾燥対策:保湿クリーム・点眼液・コンタクトは外す
  • シートベルトは腰骨の上で常時着用
  • CPAP・携帯酸素は事前に航空会社へ届け出

7. 宇宙放射線と妊娠中の被曝量

路線例所要時間線量の目安*
羽田→福岡2 時間5–8 µSv
成田→ホノルル7 時間20–30 µSv
成田→ニューヨーク13 時間約 0.1 mSv

* 太陽活動・航路で変動

  • 胎児線量限度:妊娠判明後は 1 mSv/全妊娠期間、月 0.5 mSv が国際基準
  • 一般旅行者が年に 1–2 回長距離便を利用しても 0.2 mSv 前後で安全域内
  • Solar Particle Event で一時的に線量が 10 倍以上になることがあり、渡航前に宇宙天気情報をチェックする

妊婦さんへのアドバイス

  1. 搭乗回数と飛行時間を最小限
  2. 産婦人科の主治医と相談し、不安があれば日程変更を検討

8. 旅行者血栓症(エコノミークラス症候群)のリスク別予防策

リスク層リスク因子推奨予防策
リスク40歳以上、肥満、糖尿病、脂質異常症などこまめな歩行・足首運動・水分補給
リスク下肢静脈瘤、心不全、経口避妊薬を含むホルモン療法、妊娠、出産直後、下肢の麻痺など弾性ストッキング +上記の一般予防策
リスク深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症の既往歴、6週間以内に受けた大手術、新血管系疾患の既往歴、悪性腫瘍など弾性ストッキング+医師の判断で抗凝固療法+一般予防策(主治医に相談を)

一般予防策(全リスク共通)

  1. 1 時間に 1 回の歩行・屈伸運動
  2. アルコール・カフェイン制限+水分補給
  3. 到着後 4 週間 は下肢腫脹・息切れに注意し、異変があれば早めに医療機関へ

まとめ

飛行機内は「低気圧・低酸素・低湿度」という特殊環境です。

  • 持病とリスクを把握し、出発前に必要な準備主治医に相談をしましょう
  • 機内では水分補給とストレッチを習慣化しましょう

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を代替するものではありません。

作成・監修: 森嶋 素子 (循環器専門医/日本プライマリ・ケア連合学会認定医)