現在、当院の周辺でも「ウイルス性胃腸炎」の流行が続いています。突然の嘔吐や激しい下痢に襲われ、不安な気持ちで来院される患者さんも少なくありません。

診察室でよく「ノロウイルスの検査をしてほしい」「いつから仕事(学校)に行っていいですか?」というご質問をいただきます。今回は、当院の方針も含めて詳しくお話しします。

冬に流行する胃腸炎の正体と「潜伏期間」

冬の胃腸炎といえばノロウイルスが有名ですが、原因は一つではありません。それぞれ、感染してから発症するまでの「潜伏期間」も異なります。

  • ノロウイルス: 潜伏期間は12〜48時間。極めて感染力が強く、冬の胃腸炎の主役です。
  • ロタウイルス: 潜伏期間は2〜4日
  • サポウイルス: 潜伏期間は1〜3日
  • アデノウイルス(40・41型): 潜伏期間は3〜10日と長いのが特徴です。

なぜ当院では検査を行わないのか?

当院では現在、ノロウイルスの検査は行っておりません。 それには医学的な理由があります。

1. 検査をしても「治療内容」は変わらない

これらのウイルスには直接効く特効薬がありません。検査でウイルスを特定できたとしても、治療の基本は「脱水を防ぐための水分補給」と「症状を和らげる対症療法(整腸剤など)」です。検査をしてもしなくても、お出しする薬や治療の方針は変わらないのです。

2. 保険適応の制限

ノロウイルスの検査が保険で認められているのは「3歳未満」や「65歳以上」などに限られており、それ以外の方は自費となります。治療方針が変わらない検査に費用をかけるよりも、まずは辛い症状を治すことが先決だと考えています。

登校・出社の目安はいつ?

インフルエンザのような「発症後〇日」という厳格な法律上の規定(出席停止期間)は、実は胃腸炎にはありません。しかし、二次感染を防ぐための一般的な目安は以下の通りです。

  • 登校・登園: 嘔吐や下痢の症状が治まり、普段通りの食事がとれるようになるまで。
  • 出社: 同様に、主要な症状が落ち着き、体力が回復してからが望ましいです。ただし、食品を扱うお仕事の方は、職場独自の厳しいルールがあるため必ず確認してください。

症状が消えても、ウイルスはまだ「お腹」にいる!

ここが一番大切なポイントです。症状が消えた後も、便の中にはウイルスが排出され続けています。

  • ノロウイルスの場合: 症状消失後も1週間〜2週間(長いと1ヶ月)
  • アデノウイルスの場合: 症状消失後も2週間以上

「治った!」と思った後の手洗いが疎かになることが、家庭内感染の最大の原因です。

家庭内での二次感染を防ぐ鉄則

ご家族を守るために、症状が消えてから2週間は以下を行うことをお勧めします。

  • 手洗いは「2回1セット」: 石鹸での2回洗いが、ウイルス除去率を劇的に上げます。
  • トイレ周りのこまめな清拭: 便座、洗浄レバー、ドアノブなどはウイルスが付着しやすい場所です。こまめに消毒・清拭を行いましょう。
  • タオルを分ける: ペーパータオル等の活用をお勧めします。
  • 嘔吐物の処理: 処理する際は、可能ならマスクと使い捨て手袋を着用してください。ウイルスを周囲に広げないよう、汚染した場所を密閉して処理することが重要です。
  • お風呂は最後: 感染した方は最後に入浴し、お湯を共有しない工夫を。

まとめ

  • 胃腸炎は症状が治まってからも、しばらくはウイルスを排出しています。
  • 「治りかけ」の時期こそ、手洗いやトイレの清拭など家庭内での感染対策を徹底しましょう。

「これくらいで受診してもいいのかな?」と迷わず、辛い時はお気軽に相談にいらしてください。

作成・監修: 森嶋 素子 (循環器専門医/日本プライマリ・ケア連合学会認定医)