1. はじめに

日本の夏は年々暑さを増し、救急搬送される熱中症患者も増加傾向にあります。例年、ゴールデンウィーク明け(5 月上旬)から件数が急増 し、7月に件数がピークになります。しかも 年間で 1,000 人以上が命を落とす 重大な疾患――それが熱中症です。

2. 発症時期と死亡統計

  • 発症ピーク: 7 月
  • 要注意期間: 5 月上旬から 9 月中旬
  • 死亡者数: 直近 5 年平均で毎年 1,000–1,500 名(厚生労働省・消防庁データ)

3. 体温調節のしくみ

私たちの体は、内臓や脳が 37 ℃前後に保たれるよう、二本立てで体温を調節しています。

調節機構概要
自律性体温調節自律神経系が汗腺・血管を自動制御し、発汗や皮膚血流の増加で熱を逃がす大量の汗をかき、顔が赤くなる
行動性体温調節“暑い” と感じて自ら環境を変える行動を取る日陰へ移動、エアコンをつける、水分を摂る

この 2 つのシステムが追いつかないと、体内に熱が蓄積し熱中症へ至ります。

4. 発症メカニズムと病態生理

体温が過度に上がると、細胞膜が障害されてタンパク質が変性し、全身性炎症反応 が起こります。血管内皮障害、凝固異常、臓器灌流低下が重なることで多臓器不全に進行しうる、実は “炎症性疾患” としての側面が強い点が重要です。

5. 診断のポイント

  • 体温がそれほど上がらないケースも少なくありません。
  • 暑い環境の中にどれだけ晒されていたのか、発汗の有無、めまい・頭痛・倦怠感・意識障害の有無を総合的に評価します。
  • 高齢者・持病のある方・脱水傾向のある方は、軽い症状でも熱中症を疑います。

6. 重症度分類(日本救急医学会 2024 改訂)

区分主要症状対応予後
I 度(軽症)立ちくらみ、筋肉痛、こむら返り、大量発汗涼しい場所で休息、経口補水後遺症なく回復
II 度(中等症)頭痛、吐き気、強い倦怠感医療機関を受診、点滴補液など早期治療で予後良好
III 度(重症)意識障害、けいれん、肝腎機能障害救急搬送、積極的冷却+集中治療臓器障害が残存することあり
IV 度(最重症)深部体温 ≥ 40 ℃ かつ意識障害、循環不全ICU 管理、多臓器サポート生命予後不良、迅速介入必須

7. 予防とファーストエイド

  1. 体を暑さに慣らす: 春先から軽めの運動で汗をかく習慣をつくる。
  2. 暑さを避ける: 外出は涼しい時間帯を選び、日傘・帽子・通気性の良い服装を活用。
  3. こまめな水分・電解質補給: のどの渇きを感じる前に 150–250 mL/20 分を目安に摂取。
  4. 睡眠と栄養: 寝不足・朝食抜きは熱ストレスへの耐性を下げる。
  5. “おかしい” と感じたらすぐ休む・冷やす・医療機関へ: 体幹や首筋・わきの下を冷却。頭痛や吐き気、強い倦怠感などがあれば医療機関へ。

8. まとめ

熱中症は「真夏日だけ」の病気ではありません。適切な予防と早期対応により、防ぐことが可能です。暑さと上手に付き合い、健康な夏を過ごしましょう。

参考文献

  1. 総務省消防庁. 令和 6 年(2024 年)熱中症による救急搬送状況.
  2. 日本救急医学会. 熱中症診療ガイドライン 2024.
  3. 環境省. 熱中症環境保健マニュアル 2023.
  4. Leon LR, Bouchama A. Heat stroke: pathophysiology and treatment. Compr Physiol. 2015;5(2):611–47.